白河梨々香と風俗嬢の会話
白河梨々香は行きつけの小さな喫茶店でアイスカフェオレを飲んでいた。テーブルの向かいには、ちょっとしたことから仲良くなった風俗嬢がいた。
「色街という特別な環境で育ったというのはもちろんあると思いますが、どんなきっかけで色街で働き始める人が多いんでしょうか?」
相手の言葉をやさしく引き出すような口調で梨々香はいった。
「家の借金があったり、ホストに入れあげたり、バンドマンに貢いだりって人はいますけど、いまは単純にお金が必要になってはじめる人がほとんどですね。大学とか看護学校とかの学費を稼ぐためにやっている人、奨学金返済のためにやっている人、お昼の給料では毎月の支払いが大変で、普通の仕事より手っ取り早く稼げるからやっている人、お酒が飲めないから水商売が無理ではじめたという人や、わたしみたいに貯金が目的で副業としてやっている人、資格を取りたくてという人、なかには起業したいという大きな目標を持っている人もいます。 服を買いたいとか、ゲームにお金を使いたいという軽い気持ちでやっている人もいます。女に生まれただけで稼げるんです。かわいければさらによし。それを使わない手はないんですよ。父親に性的虐待を受けていたんだろうとか、メンヘラなんだろうとか、聞いてくるお客さんはいるんですけど、そういうのって、だいたいが男性の思い込みなんですよ。男性はロマンチストですから、そういうバックストーリーを作って、女性を神聖な位置に置いておきたがる。女性は本来清いもので、汚れたのは周囲の影響だということにしたい。お客さんの中には、そうやって勝手に哀れんで、すごくやさしくしてくれたり、チップをくれたりする人がいるので、こちらとしては嬉しいんですけどね」
風俗嬢はあまり感情の起伏を表に出さなかった。
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