NOVEL2
色街乙女™本編
1 白河梨々香
音楽が止まった。色街乙女™の初ライブが終わったのである。ワンマンではなかった。そのため、ほかのグループ目的で入ってきた人たちが主で、色街乙女を観にきた人は友達ばかりであった。客が帰ってゆく様が、いかにも寂しげであった。
ステージは悪くなかったが、梨々香は歌詞を飛ばし、梓はサビの転調を外し、ゆいは終始ふらふらしていた。カロナはいつも通り愛想がなかった。
それでも初ライブという体裁は保たれていたため、浜林はプロデューサーとして何の苦言も呈することなく、ライブの労をねぎらった。
「生魚苦手なメンバーいるか? いなければこれから寿司だ」浜林の言葉にメンバーは歓喜した。
たらふく食って飲んだ帰り、突然、ゆいがうずくまって泣き出した。
「ずっと不安で……自分にうまくできる自信なくて……いっそわたしなんかいないほうがいいんじゃないかって思って……」ゆいの目からは、ぽろぽろと涙があふれ出した。
「今日のみんな、きっと不安だったよ。でもそうやって、不安なのはみんな一緒だからって慰めるのは違うと思う。だって、ゆいは違うから。わたしも、梓も、カロナも持たない経験を持ってる。忘れようとしても、捨てようとしても、小さい付箋がついて、ずっと奥にしまわれて離れないもの。それを持ってるんだもん」
「梨々香……」
「ゆい泣き上戸?」カロナが髪をなびかせながら言った。
「ぶー。正解は……あたし!ほんと泣き上戸」梓は鮮やかなルージュで満たした唇を震わせていった。
「そうなの! いつ見れるかしら」一瞬びっくりした顔を見せたカロナだったが、すぐいつもの表情に戻っていった。
浜林賢二郎は帰り、4人は公民館を出たところの2番ゲートから色街に入った。各自別れ、軽く挨拶を交わした。
梨々香は自宅に戻り、自身の住むマンションの3階から川沿いを見下ろした。川は真っ黒で、そこにはなんの希望も見られなかった。朝が来れば、と思った。ただその朝は曇りかも知れない、雨かも知れない、嵐かもしれない。明けた朝が必ずしもよい朝だとは限らないのである。