春の嵐

 家の庭には小さな桜の木があった。小学校3年生の頃に学校で買った苗だ。最初はまったく大きくならず、大きくなりやしないと思って適当に扱っていた。すると、中学1年生の頃から急に成長し始め、裏の庭に植え替えた。わたしが高校生になってからも苗は大きくなり続け、やがて木になった。春には美しい花を咲かせるようになり、やがて花を散らせ、ゴツゴツとした無骨な肌を見せるばかりであった。

 僕には好きな人がいた。桜の花に比べても遜色のない、切れ長の目が印象的な端正な顔の持ち主であった。彼女は卒業後、ある仕事に就くという。それはつまり、僕にとって現在の終わりであった。大好きな人がまったく別の誰かの物になる、それはもう抗えない事実であり、覆せない事実であった。桜から落ちる花びらを見るたびに、その苦しみは募っていった。僕の心は軋み、かき乱されるようであった。わたしはその仕事について、否定的な感情は抱いていない。ただ、好きな人である以上、それを手放しで喜ぶことはできない。不特定多数とかかわることは嫌なのである。しかし、自分自身もその不特定多数のなかの客のひとりなのである。そこに矛盾が生じる。桜が散る頃には結論を出そう。そうやって月日が流れた。今年が駄目なら、桜の木は切ってしまおうと思う。あなたを重ねた桜の木は、切ってしまおうと思う。汗ではなく、涙を流しながら。

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色街で生まれた4人の乙女。 烙印を背負いながら人生の悲哀を歌う。近未来遊郭アイドル。